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偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。

『イゴーロナクの手』


 


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私が像を手にいれ、ブリチェスターに戻って一ヶ月ほどが過ぎた頃のことだ。

ロウアー・ブリチェスターの片隅で、事件が起こった。


被害者は小太りの中年男性で、獣に食い荒らされたような惨たらしい死体となって転がっていたという。
彼が死亡したと予想される日はかなりの大雨が降っており、もしかしたら助けを呼んだかもしれないその声も、悲鳴もかき消されたのだろうか。
近隣の住民はその出来事にまったく気付かなかったらしい。

警察はたびたびゴミを荒らしたり通行人に怪我を負わすことがある野良犬の群れにでも襲われたのだろうということで、事件の捜査を早々に打ち切った。
検死をした医師は『犬にしては裂傷も噛み傷も大きすぎる』と意見していたが、それらは逮捕するべき相手がいないためにやる気を無くした捜査官たちに一蹴された。

だが、これらの事件をただの事件ではないと見破った者もいる。
私も含め、ブリチェスターで生きる魔術に深く精通している者たちは、これが『魔術によって呼び出されたこの世のものならぬ何かによって喰われた』と気付いたはずだ。

だが、彼らは私と同様、他人のすることに無関心だったのだろう。私たちのような世界に首を突っ込んだ者というのは、大抵そういうものだ。
誰もこの事件に関わろうとはしなかった。

しかし魔術に精通した『公僕』は違う。
彼らはこの事件を『魔術的なものを用いて行なった殺人』と判断し、独自に捜査を始めた。
ブリチェスター中の魔術関係者を全て洗い出し、容疑者としてリストアップしていく。


私もその中の一人に含まれていた。


結論を言うと、彼らが捜査を始めた時既に犯人はこの世の人ではなかった。
素人同然の犯人が面白半分で行なった術は一人の哀れな犠牲者を生んだが、同時に制御し切れぬ異形は犯人自身をも襲ったのだ。

よくあること、である。

人付き合いの無かった彼は、これよりさらに一ヶ月近く経ってから、ようやく異臭騒ぎで近所の住民によって蝿と蛆に包まれた吐き気を催す変わり果てた姿を発見されるのだが、今はどうでもいいことである。


犯人の死体が発見される以前に話を戻す。


ある日、私の家に二人の男が訪れた。
呼び鈴に応えて外に出てみると、身嗜みを美しく整えたスーツ姿の二人組みが立っていた。
柔らかな表情を浮かべた中年男性、そしてその半歩後ろに無表情のまま控えて立つ20代後半くらいの若い男性。

私は瞬時に警戒した。もちろん顔には出さなかったが。

この二人の眼は、私の一挙一動を捉えている。
猛禽類のような眼だ。
そしてその隙の無い体勢……相当の訓練を経ている。

恐らくは警察の上位機関、あるいは政府機関の人間か。
そんな人間が何の用なのか。


「ラヴィニア=メイスンさんですな」
「そうだが。あなたがたは?」
「失礼。私はリチャード=カールソン。彼はスミス=ディケンズ。我々はブリチェスター市警の者です」


柔和な、いや、柔和を装う中年男性は、そう言って警察手帳を示した。

嘘だな。
私は即座にそう断定した。
市警にこれほどの者たちがいるわけがない。
市警のふりをして、なにを嗅ぎまわっているというのか。

だが、私は彼らに乗ってやり、そのまま話を続けた。

「市警の方が何の用だ?」
「ええ、先日の事件……そう、外れで男性が食い殺された事件ですが、覚えてらっしゃいますか?」

私は頷いた。

「野良犬に襲われたとか新聞に書いてあったが。それが何か?」
「ええ、そうなんですが……ただの野犬に襲われたにしては、怪しい点が少々ありましてね。捜査はまだ続いておりまして……」

私は興味なさげに鼻を鳴らした。

「なるほどな。だが、それが私と何の関係が?」

男は柔和な顔の口元に、笑みを浮かべた。
だが、その眼はまったく笑っておらず、私の目を真直ぐに射抜いた。

「ええ。そのですな……犯行の手口と考えられる方法がですな、ある、変わった方法でしてね。普通では考えられんような方法で……その方法に詳しいのではないか、と思われる同様の趣味をお持ちの方に、少々お話を伺って回っているのですよ」

変わった方法。

普通では考えられない方法。

つまりは、魔術だ。

私は彼らがここへやってきた理由がようやく分かった。
彼らにとって、私も容疑者の一人ということらしい。

だが、私はとぼけてやった。
正体を隠す得体の知れないこいつらが、気に入らなかったからである。

「さて?何のことかわからないな?」

若い男は眉を顰めて険しい顔を作ったが、リチャードと名乗る中年男は暫く私を見つめてすぐ「そうですか。何か思い出したらいつでも市警に連絡をください」と言い残してあっさり背を向けたため、すぐに表情を戻してその後に続き、さっさとその場を去ってしまった。


彼らが去った後、私は書斎に戻って頬を撫でた。
考え事をする時の癖である。

あの二人。
どうにも気になる。
と言うより、危険だ。
放置していると厄介なことになる。

こういう時の勘は外れたことが無い。
だが私には彼らが何者かも分からない。
奴らが事を起こす前に、できるだけ多くの情報を入れておかねばなるまい。


そう思った私は夜を待ち、一軒の酒場へ向かった。
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