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偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。

『イゴーロナクの手』



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イルダが私の従者となって数ヶ月が過ぎたころのことである。



私は書斎の窓を開け放ち、秋風を入れながら書を読み耽っていた。
旅に出ては魔術に関するものを求め、持ち帰っては書斎にこもって研究し、研究がある程度終ってしまうとまた旅に出て……とその繰り返しであった。

当初は険悪であったイルダとも、打ち解けたとまでは言わないがそれでも多少はまともな会話ができるようになっていた。


そんな日のことである。



表向きにしろ何にしろ、私の従者となったイルダは屋敷の家事一切を行なってくれていた。
彼女が器用に人間の料理を作ってしまった時は驚いたが―――それはともかくとして、今日もイルダは庭の掃除をしていたようである。

庭は荒れるに任せていたので、掃除をする必要はないと言ってはいたのだが、彼女はどうしても気になったらしい。

その日は時間もあったようで、結局、掃除をすることにしたようだだった。



イルダが私を呼ぶ声がした。
書物から視線を上げ、窓から顔を覗かせると、私の部屋を見上げるイルダが真下にいたのだった。

「どうかしたか?」

尋ねると、

「裏庭に、何か奇妙なものがあるのですが。あれはなんですか?」

と問うのである。

奇妙なもの?
私は心当たりがすぐに思いつかず、小首を傾げるだけだった。
その様子に、イルダは言葉を続けた。


「人間の、左腕の形をした置物のようなのですが」


ああ、と私は思わず口に出した。
そう聞いて、すぐに何かわかったからである。

説明しようとしたのだが、思い留まって口を噤んだ。
ここで説明するには、話が長くなるからである。

私はイルダに「待っていろ。そちらに行くから」と伝えると、読んでいた書に栞を挟んで一階に降り、外へ出た。

裏庭にまわると、件の『左腕の置物』をまじまじと見つめているイルダがいた。
その置物は裏庭に無造作に置かれ、風雨に晒されるままになっていたが、汚れこそすれ、傷ついた様子はなかった。

彼女は振り向きもしなかったが、私が背後にいることはちゃんと気付いており、そのまま話しかけてきた。

「これは……見たことも聞いたこともない素材ですね。緑灰色の石でできているようですが、こんな素材、私も初めて見ます」

年若い彼女には分からないらしいが、もう少し年経たクトーニアンであれば、これが何だか果たして知っているであろうか。


その腕は緑灰色の石でできており、左腕の肘から先が天に向かって垂直に伸びていた。
肘の部分には台座がある。

掌は少し傾き、指は広げられているものの、少しばかり曲がっている。


そして何より奇妙なのは。

その掌に、乱杭歯を剥き出しにした口があることである。

その口は獰猛で、邪悪な印象を誰もが受けるに違いあるまい。



イルダはしゃがみ込むと、台座に手を伸ばした。


「待て、イルダ」

私は即座に、静かに、しかし強く制した。
イルダは驚きの表情を向けて手を止める。

「何か?」

「その像に触るのはいいが、掌には触るな。
あと、盗難防止の術が施してある。
少し動かすくらいならいいが、持ち上げるなよ」

イルダは頷くと、台座の前部分に軽く触れた。

「ここだけ変だと思っていたんですが……粘土ですね」

台座の前面、高さ約3センチ、幅15センチほどの部分だけが粘土になっているのに気付いたらしい。

私は頷いた。

「これは私の魔術道具の一つだ。
非常に貴重なものではあるのだが、手に入れた時、前の持ち主が庭に置いていたのでな。
私も何となく外に置いたままにしている」

「なるほど。
で?これはなんです?」

イルダは好奇心に目を輝かせて尋ねた。



「これは『イゴーロナクの手』だ」





途端にイルダの顔が凍りつく。
その視線は狼狽を如実に表しており、私の顔と『手』の間を行ったり来たりしている。

「こ、これが、あの旧支配者イゴーロナクの……?」

私は肯いた。

「そうだ。
あまり知られてはいないが、知る者は彼を恐れる。
そして彼は己を知る者を許さぬという。
それが旧支配者イゴーロナクだ」


イルダは手を見つめながら呟いた。



『大いなるクトゥルフの下僕たちでさえ、イゴーロナクの名を口にすることを憚っている。
しかしながら、その日がやがて来るだろう。
イゴーロナクが永劫の寂莫の中より歩み出で、再びこの世を闊歩する日が……』




「ふむ。『グラーキ黙示録』か」

「貴女の書斎で目にした一節です。
しかし、よくこんなものを手に入れたものですね……。
で?これを使ったことはあるのですか?
あるのなら、少し話を聞かせてもらえませんか」

イルダが驚嘆と好奇に満ちた目で私を問い詰める。
クトーニアンとして年若い彼女は知識も経験もまだまだ浅い。
知りたいこと、見たいこと、経験したいことはたくさんあるのだろう。
それは私の従者として強制的に暗く深き土中から飛び出してより、日に日に強くなっているように思われた。


私はニヤリと笑う。


「聞きたいか?」

イルダは少しむっとした顔をした。
私に主導権を取られていることが気に入らないようだが……それでも好奇心の方が勝っているらしく、すぐに肯いた。


「いいだろう。
そんな長い話でもなし。
書物ばかり読んでいるのもなんだ。
気分転換に話してやろう」
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