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偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。

『グ・ハーン断章』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「クトーニアンたちと会談してきたのさ。
盟約を結びたいと思ってね。
彼らに大層歓迎されたよ。
大いなるシュド=メルにもお会いすることができた」

私は口元にニヤニヤと笑みを浮かべながら淡々と語った。
後ろでイルダが何か言いたそうな気配を見せたが、結局何も喋らなかった。

男たちは仰天したらしく声も無く、目を白黒、顔を青やら赤やらに変えながらおたおたと互いの顔を見比べていた。

「く、クトーニアンどもが、魔女とは言え、人間と手を組んだだと?そんなバカな話があるか!奴らとまともな会話なんぞできるはずがない!」
「全くだ。冗談も休み休み言え!そもそもよくそんなことを口にできるもんだ。貴様、人間でありながら同胞を邪神どもに売り渡そうとしたとでも言うのか?恥知らずめ!」

男たちは狼狽しつつも、確かな怒りをその顔に漲らせて私を睨み付けていた。
銃口は私たちの胸にぴたりと定まっている。

私はわざとらしく溜息を吐いた。

「で?私をこれからどうするって?」
「決まっている。支部へ同行してもらう。そこで本当のことを吐いてもらうさ」
「黙秘は通じないぞ。俺たちの組織には、口を割らせずとも相手の秘密を知ることができる能力者がいるんだ。
どうせクトーニアンのカルトがここで儀式でも行なおうとしているんだろうが、そうはさせるかよ」

「本当のことしか言っていないんだがなあ」

私の苦笑混じりのぼやきは、しかし二人に完全に無視された。
どうもこの二人、私がクトーニアンのカルトの一員であると考えているらしい。
神の信者を名乗り、怪しげな儀式やらで乱痴気騒ぎしかできない連中と一緒にされては困るのだが。

私とイルダに銃を向け、顎をしゃくる。
車に乗れ、と促しているのだ。

「おかしな真似をしたら即撃つからな」

銃に殺気がある。
脅しだけで済みそうにはないようだ。


私は溜息一つ吐いて歩き出そうとした。
いや、正確には、歩き出すように見せかけて、単に体を動かしただけだ。

その途端、懐から、先ほど忍ばせておいたカードがはらりと地面に舞い落ちた。

男たちは私の一挙一動を見逃さないようにしている。
当然、そのカードの動きも、見落とすはずが無い。

「?」

二人は顔を見合わせた。


私は拾おうと体を屈めた。
だが、これはフリだ。


「おい、待て!なんだそれは!」
「動くんじゃない!」


男の一人が銃口を私に向けたまま近づいてきた。
もう一人はイルダの動きを警戒している。
イルダはただ黙って立ち尽くしているだけだ。


私の狙い通り、男はカードを拾い上げた。
私が魔女であるが故に、これを魔術的武器だと警戒して、取り上げようとしたのだろう。

だが、それが彼の寿命を縮めることになるのだが。


男はまじまじとカードを見つめている。
指で擦りながら顔を顰めた。

「なんだこりゃ?小麦粉でできてやがる。
変な文字が書いてあるな……俺には読めねえ。
何かの呪いのカードか?」


文字。
それはプテトライト語でこう書かれている。


『げふんぐるい むぐるうんふ ぐへー=ゆ
いぶ=つとぅる ふたぐん むぐるう いとれて
んぐうが いぶ=つとぅる げふんぐるい むぐるうんふ
あこぶぐしゃぐ いぶ=つとぅる たばいと!
いぶ=つとぅる! いぶ=つとぅる! いぶ=つとぅる!』


『水神クタアト』に記された式文『第六サスラッタ』である。

私の口が高速で動く。
彼らには聞えていまい。
この『ホイ=ディーンの詠唱』を呟く声は。


それが完了した時。

破滅は始まった。


男は視界に黒い雪のような粒が見えたのを認め、空を見上げた。
上から次々と黒いものが振り落ちてくる。

「あ?なんだこりゃ?」

それはカードを持った男の頭上から、彼にだけ降り注いでいた。

「お、おい!なんか変だ!何も無いところからお前のところだけ降っているぞ!」
「え?……え?」

カードを持った男は慌てて体をばたつかせ、自分に降り積もってい黒いものを振り払おうとしたが、それは彼に張り付いて離れない。
見る見る彼に積もっていく。

「なんだ?なんだよこれ!?おい、どうなってる!」

男は悲鳴をあげて、そこから逃げようと走り出した。
だが黒い雪は彼を追い、静かに降り積もっていく。

私に銃口を向けた男は慌てて私に銃を近づけた。

「おい!お前の仕業か!止めろ!あれを今すぐ止めろ!」

仲間を助けようと、必死で私に怒鳴りつける。
だが、私は淡々と答えた。

「それは無理だ。
あれは一度始まると、もう誰にも止められない。
――――誰かが死ぬまで、な」


カードを持った男は、降り積もり続ける黒い雪の重さに耐え切れず、自らの体の何倍にも膨れ上がった姿で倒れこんでしまった。
黒い雪はその上にも容赦なく降り注ぎ、黒い山はさらに異様な大きさになっていく。

断末魔の、くぐもった声が黒いものの中から聞えた。
銃声が何発も鳴り響き……途絶えた。


黒いものは霞のように消え去り、後には凄まじい恐怖に顔を引き攣らせた男の窒息した死体だけが何事もなかったかのように残されていた。
咽喉には幾筋も引っ掻き傷があり、血が滲んで真っ赤に染まっていた。


「き、貴様!貴様!」


怒りと恐怖で激昂したもう一人の男が引き金を引こうとしたその瞬間。
蔦のようなものが銃身に巻き付き、その銃を瞬時に取り上げた。

「ひっ!?」

短い悲鳴と共に男が視線を移す。
私もそれに習うと、右腕の肘から先を触手に変えたイルダが私に向かって銃を放り投げるのが見えた。
なるほど、腕は触手を変化させたもののようだ。

男は呆然として、イルダの腕と、奪われた銃と、空虚となった自らの手の間で視線をさまよわせ続けている。


私は銃を受け取ると、あまりのことにとうとう腰を抜かしてへたり込んだ男の顔に銃口を向けた。

「よ、よせ……やめてくれ……撃つな……」

涙と鼻水を流しながらガタガタと震え、懇願する男。
先ほどまでの威圧的な態度が嘘のようだ。


私は目を細め。

そして。



ニタリ、と無言で満面の笑みを浮かべてやった。



魔女に関わって、碌な最期を迎える奴など存在しないのだ。





「いやだ!やめろ!」



男の必死の懇願、その絶叫に対し。

私は躊躇うことなく、鉛球の返答をくれてやった。

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