偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。
『グ・ハーン断章』
『グ・ハーン断章』
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“イルダ。イルダよ。どこにおる”
“はい、御神。イルダ、ここに控えております”
返事をしたのはシュド=メルの右側の壁の列に並ぶ一匹のクトーニアンだった。
他のクトーニアンに比べ、だいぶ体が小さい。
“ここへ”
“ははっ”
シュド=メルが短く呼び寄せると、イルダと呼ばれたクトーニアンは素早く歩み寄ってきた。
“長様。私に何の御用でしょうか?”
“うむ……”
問うイルダの体に、突然、シュド=メルの触手が伸びる。
無数の触手はあっという間にイルダの全身を覆い隠してしまうが、イルダは驚きの悲鳴一つあげない。
程なく、触手がしゅるしゅると音をたてて離れていく。
そこにおぞましい異形の姿をしたクトーニアンはいなかった。
代わりに、黒いローブを着た少女が立っている。
私も、そして居並ぶクトーニアンたちも何事が起こったのか、あるいはなぜ彼がイルダをそんな姿にしたのか、ただただ驚いて絶句するのみだった。
だが、一番驚いているのはイルダ本人だ。
少女は自分の姿をばたばたと確認し、眉を顰めた。
「お、長、これは一体、どうしたことでありますか?」
澄んだ声が少女の口から漏れる。
だがその声は、恥辱に震えていた。
“イルダよ。お前はこれから魔女に付き従い、共に行動するのだ”
想像だにしていなかったであろう命令に、イルダは目を見開いた。
クトーニアンたちがどよめく。
「そんな!私に人間の下風について、人間の中で過ごせと仰るのですか!?」
“そのとおりだ、イルダよ。
そのために、汝の姿を人間に擬態させておいた。
この後は己の意思で本来の姿と擬態とを変化させる事ができよう。
お前はこの魔女と共に行き、その契約がしかと遂行されているかどうかを見届けよ”
厳かに命を下すシュド=メル。
しかしイルダの両肩は戸惑いと怒りとで震えている。
眉間には、それと分かるほどはっきりと怒りの皺が寄っていた。
「そのようなことを!
私に、矮小なモノどもの仲間入りをせよと仰せですか!
いっそ、死ねと命ぜられるほうが、余程……」
“我が命に従えぬと言うか”
不平を返そうとするイルダを黙らせる。
イルダの顔には怯えが走り、恐怖でその全身ががくがくと震えだした。
他のクトーニアンたちも瞬時に凍りついた空気にあてられ、押し黙った。
「そのような……そのようなことは!決して!」
必死に頭を振る。
“よいか、イルダよ。
お前に不満があるのは重々承知。
だがこれは重要なことである。
お前はこの魔女の手助けをすると同時に、この魔女の行動を監視せよ。
何かあればすぐに我らに報告するがよい。
だがそれだけではない。
我らは地下に潜み続けて久しい。
時折入手しておるとはいえ、地上で覇者面をして闊歩している人間どもの情報は極めて少ないと言わざるを得ない。
お前は魔女と行動を共にすることで、人間の社会がどのようなものであるのかという情報を得て参れ。
人間どもがどう変わったか、今何をしているか、これから何を成さんとしているか……我らもそれを知る必要がある”
「は、ははっ」
イルダは平伏した。
シュド=メルはその姿を見届けると、私の方へ体を向けた。
人間で言えば視線を向けたということだろうか。
「魔女・ラヴィニアよ。
この娘はイルダ。年若きクトーニアンの雌である。
この者はまだほとんど力を使えぬが、高い魔力を秘めておる。
汝の僕として、汝の魔力の源として使うが良い。
だが、一つ言っておくぞ。
この者は雌だ。貴重な、種の存続に欠かせぬ数少ない雌である。
故に、お前はイルダに危険が及ばぬようにせよ。
もしイルダが命を落とすようなことになった時……汝を生かしてはおかんからそのつもりでな”
彼の言う盟の証。
それは使い魔、僕という名の監視役派遣ということであるらしい。
しかも、命に関わる内容だ。
「全て承知致しました」
だが、私はただ恭しく頭を下げた。
お荷物を抱えたのか、役に立つ使い魔を手に入れたのかよく分からないが、自分には従う以外の選択肢はないからだ。
それにこの娘。
並々ならぬ魔力を内から感じ取れる。
この力、何かと役に立つかもしれない。
私と視線が合うと、イルダは露骨に不機嫌そうに顔を顰め、そっぽを向いた。
なかなか、気位は高いらしい。
私は心中で苦笑を禁じえなかった。
“では、会合は終了だ。
お前たちは地上へ出るがよい”
シュド=メルが短く宣言するや、私たちは突然、強い浮遊感に襲われた。
“イルダ。イルダよ。どこにおる”
“はい、御神。イルダ、ここに控えております”
返事をしたのはシュド=メルの右側の壁の列に並ぶ一匹のクトーニアンだった。
他のクトーニアンに比べ、だいぶ体が小さい。
“ここへ”
“ははっ”
シュド=メルが短く呼び寄せると、イルダと呼ばれたクトーニアンは素早く歩み寄ってきた。
“長様。私に何の御用でしょうか?”
“うむ……”
問うイルダの体に、突然、シュド=メルの触手が伸びる。
無数の触手はあっという間にイルダの全身を覆い隠してしまうが、イルダは驚きの悲鳴一つあげない。
程なく、触手がしゅるしゅると音をたてて離れていく。
そこにおぞましい異形の姿をしたクトーニアンはいなかった。
代わりに、黒いローブを着た少女が立っている。
私も、そして居並ぶクトーニアンたちも何事が起こったのか、あるいはなぜ彼がイルダをそんな姿にしたのか、ただただ驚いて絶句するのみだった。
だが、一番驚いているのはイルダ本人だ。
少女は自分の姿をばたばたと確認し、眉を顰めた。
「お、長、これは一体、どうしたことでありますか?」
澄んだ声が少女の口から漏れる。
だがその声は、恥辱に震えていた。
“イルダよ。お前はこれから魔女に付き従い、共に行動するのだ”
想像だにしていなかったであろう命令に、イルダは目を見開いた。
クトーニアンたちがどよめく。
「そんな!私に人間の下風について、人間の中で過ごせと仰るのですか!?」
“そのとおりだ、イルダよ。
そのために、汝の姿を人間に擬態させておいた。
この後は己の意思で本来の姿と擬態とを変化させる事ができよう。
お前はこの魔女と共に行き、その契約がしかと遂行されているかどうかを見届けよ”
厳かに命を下すシュド=メル。
しかしイルダの両肩は戸惑いと怒りとで震えている。
眉間には、それと分かるほどはっきりと怒りの皺が寄っていた。
「そのようなことを!
私に、矮小なモノどもの仲間入りをせよと仰せですか!
いっそ、死ねと命ぜられるほうが、余程……」
“我が命に従えぬと言うか”
不平を返そうとするイルダを黙らせる。
イルダの顔には怯えが走り、恐怖でその全身ががくがくと震えだした。
他のクトーニアンたちも瞬時に凍りついた空気にあてられ、押し黙った。
「そのような……そのようなことは!決して!」
必死に頭を振る。
“よいか、イルダよ。
お前に不満があるのは重々承知。
だがこれは重要なことである。
お前はこの魔女の手助けをすると同時に、この魔女の行動を監視せよ。
何かあればすぐに我らに報告するがよい。
だがそれだけではない。
我らは地下に潜み続けて久しい。
時折入手しておるとはいえ、地上で覇者面をして闊歩している人間どもの情報は極めて少ないと言わざるを得ない。
お前は魔女と行動を共にすることで、人間の社会がどのようなものであるのかという情報を得て参れ。
人間どもがどう変わったか、今何をしているか、これから何を成さんとしているか……我らもそれを知る必要がある”
「は、ははっ」
イルダは平伏した。
シュド=メルはその姿を見届けると、私の方へ体を向けた。
人間で言えば視線を向けたということだろうか。
「魔女・ラヴィニアよ。
この娘はイルダ。年若きクトーニアンの雌である。
この者はまだほとんど力を使えぬが、高い魔力を秘めておる。
汝の僕として、汝の魔力の源として使うが良い。
だが、一つ言っておくぞ。
この者は雌だ。貴重な、種の存続に欠かせぬ数少ない雌である。
故に、お前はイルダに危険が及ばぬようにせよ。
もしイルダが命を落とすようなことになった時……汝を生かしてはおかんからそのつもりでな”
彼の言う盟の証。
それは使い魔、僕という名の監視役派遣ということであるらしい。
しかも、命に関わる内容だ。
「全て承知致しました」
だが、私はただ恭しく頭を下げた。
お荷物を抱えたのか、役に立つ使い魔を手に入れたのかよく分からないが、自分には従う以外の選択肢はないからだ。
それにこの娘。
並々ならぬ魔力を内から感じ取れる。
この力、何かと役に立つかもしれない。
私と視線が合うと、イルダは露骨に不機嫌そうに顔を顰め、そっぽを向いた。
なかなか、気位は高いらしい。
私は心中で苦笑を禁じえなかった。
“では、会合は終了だ。
お前たちは地上へ出るがよい”
シュド=メルが短く宣言するや、私たちは突然、強い浮遊感に襲われた。
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