偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。
『グ・ハーン断章』
『グ・ハーン断章』
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気付けば、奈落へと落ちる前に立っていた場所だった。
ここに訪れた時は昼過ぎだったのに、太陽は昇ったばかりの位置にあった。
何日か経ったのだろうか。
イルダは相変わらず不機嫌そうな顔を隠そうともしない。
私と目が合うと、睨み返しながら強い口調で言い放った。
「勘違いなさらないことです。契約者。
長がああ言われたから、仕方なく貴女について行きますが、私は心から貴女の従者になるつもりなどありません。
貴女を監視するために遣わされただけです。
約を違えたが最後、躊躇いなくその首捻じ切りますので」
私はそれに苦笑で答えた。
「結構。
つまり私が約を守り続けるならば、お前は私の力になるしかないわけだ。
さすがはクトーニアン。年若いといえど体内の魔力は人間と比すべくもないな。
使わせてもらうぞ、お前のその力。
まさか、拒否はすまい?」
イルダは返事をしない。
ただ、口惜しげに唇を噛んで私を睨むだけだ。
私より長生きではあるが、クトーニアンでは子供と言って差し支えない年齢だ。
まだ幼い感じが拭いきれていない。
まあ無理もない。
元来、クトーニアンは人間などの血を好み、地中にその生存圏を広げてはいたものの、別に人間社会に君臨しようとしているわけではない。
人間は彼らにとって牛や豚―――つまりは家畜のようなものだ。
彼らの生活を彩る一部のものでしかない、意に介するようなものではないのだ。
我々人間が牛や豚の下風に晒されればどう思うかということを考えれば、彼女の屈辱はよくよく理解できた。
今でこそ、それなりに友好な関係を築けてはいるものの、このように、イルダとの最初の関係は最悪と言えるものだった。
さて、イルダとそんなやり取りをしていると、遠くから車の音が近づいているのが段々と聞えてきた。
目を凝らせば、地平線の向こうから一台のジープが走ってくるではないか。
ガイドの車だ。
私は眉を顰めた。
ガイドがここにやってきたということは、あれから一週間が過ぎたということだ。
短い時間でしかないと思っていたが、まさか地中でそんなに長い時間を過ごしていたとは。
東の島国である日本のあるおとぎ話に出てくる主人公は、このような心境だったのだろうか。
「ラヴィニア。なんですか、あれは」
「車だな」
「そんなものは見れば分かります。なぜこんな所に車がやってくるのですか」
「私をここに連れてきたガイドの車だ。一週間経ったら迎えに来るよう言っておいた」
そうですか、と生返事をしたイルダ。
だが、次に意外なことを口にした。
「運転しているのはそのガイドですか?
しかし乗っているのは1人ではないようですが」
「何?」
私は怪訝に思い、聞き返した。
「全部で3人ですね」
私の目では、ここからでは辛うじてガイドのジープであろうと分かる程度にしか見えないのだ。車の中のことなど分かるわけがない。
しかしイルダには車の中に誰が乗っているのか判断できているらしい。
しかし3人とはどういうわけか。
ガイドの連れであろうか……?
何やら嫌な予感がする。
この勘は当るのだ。
私は懐に一枚のカードを忍ばせ、少し動けばすぐに足下に滑り落ちるよう細工した。
車はどんどんと近づいてきた。
なるほど、確かに後部座席に2人、誰かが乗っている。
ジープは私たちから少し離れた場所で土煙をあげながら停車した。
後部座席から男が二人降りてくる。
どちらも見慣れない顔だ。
ガイドは運転席に座ったまま、半ば隠れるようにしてこちらを窺っている。
降りてきた男たちはどちらも若い……白人だ。
私たちに近づくや否や、銃を構えて高圧的な言葉をかけてきた。
「ここで何をしている!」
英語……いや、米語だ。
アメリカ人らしい。
私が眉を顰めて黙っていると、もう一人が続けて怒鳴ってきた。
「ここで何をしているのかと聞いているんだ、魔女め!」
魔女?
なぜこいつら、私が魔女だと知っている?
私の心の中の疑問に答えるように、男たちは喋り続けた。
「我々はウィルマース・ファウンデーションの支部の者だ。ここを監視している」
「あのガイドには、ここにやってこようとする者がいれば連絡を寄越すようにしてあったんだよ」
「スミス卿が死んで以来、ここに来ようとする奴なんてろくな者じゃないのは分かりきったことだからな」
「この土地の存在を理解している奴は魔術に身を置くものくらいのモンだ。
さ、白状してもらおうか、魔女め。
ここで何をしていた?」
なるほど、こいつらが、かの名高いアーカムの対邪神組織『ウィルマース・ファウンデーション』のメンバーか。
クトーニアンと交戦したらしいが、それ以降、この周辺を監視し続けているということらしい。
まあ、確かに、考えてみれば好き好んでこの場所にやって来る者はそういない。
故・スミス氏のことを考えれば、歴史研究家でもここは避けて通るだろう。
となれば、あとはクトーニアンの存在を知る者、その信者などなど……いずれにせよ、彼ら組織にとってろくでもない者であろう。
銃の構え方は訓練された者のようだ。
隙は無い。下手に動けばいつでも引き金を引くだろう。
男の一人が口笛を吹いた。
「魔女は一人だって聞いたが、二人いたのかよ。
揃って別嬪だな。手荒な真似はしたくないが、これも任務でね。
答えないなら支部できっちり吐いてもらうしかないな」
ウィルマース・ファウンデーションには多くの異能者が存在する。
中には精神感応で相手の精神に深く入り込むことができる者たちもいるのだ。
となると、黙秘は意味が無い。心の中を探られて、記憶を暴かれるだろう。
さて、私には余裕があった。
なぜならば……銃を前にしても、私には彼らにしてやられる理由が何も無かったからである。
だが、私はさっさと喋ってやることにした。
気付けば、奈落へと落ちる前に立っていた場所だった。
ここに訪れた時は昼過ぎだったのに、太陽は昇ったばかりの位置にあった。
何日か経ったのだろうか。
イルダは相変わらず不機嫌そうな顔を隠そうともしない。
私と目が合うと、睨み返しながら強い口調で言い放った。
「勘違いなさらないことです。契約者。
長がああ言われたから、仕方なく貴女について行きますが、私は心から貴女の従者になるつもりなどありません。
貴女を監視するために遣わされただけです。
約を違えたが最後、躊躇いなくその首捻じ切りますので」
私はそれに苦笑で答えた。
「結構。
つまり私が約を守り続けるならば、お前は私の力になるしかないわけだ。
さすがはクトーニアン。年若いといえど体内の魔力は人間と比すべくもないな。
使わせてもらうぞ、お前のその力。
まさか、拒否はすまい?」
イルダは返事をしない。
ただ、口惜しげに唇を噛んで私を睨むだけだ。
私より長生きではあるが、クトーニアンでは子供と言って差し支えない年齢だ。
まだ幼い感じが拭いきれていない。
まあ無理もない。
元来、クトーニアンは人間などの血を好み、地中にその生存圏を広げてはいたものの、別に人間社会に君臨しようとしているわけではない。
人間は彼らにとって牛や豚―――つまりは家畜のようなものだ。
彼らの生活を彩る一部のものでしかない、意に介するようなものではないのだ。
我々人間が牛や豚の下風に晒されればどう思うかということを考えれば、彼女の屈辱はよくよく理解できた。
今でこそ、それなりに友好な関係を築けてはいるものの、このように、イルダとの最初の関係は最悪と言えるものだった。
さて、イルダとそんなやり取りをしていると、遠くから車の音が近づいているのが段々と聞えてきた。
目を凝らせば、地平線の向こうから一台のジープが走ってくるではないか。
ガイドの車だ。
私は眉を顰めた。
ガイドがここにやってきたということは、あれから一週間が過ぎたということだ。
短い時間でしかないと思っていたが、まさか地中でそんなに長い時間を過ごしていたとは。
東の島国である日本のあるおとぎ話に出てくる主人公は、このような心境だったのだろうか。
「ラヴィニア。なんですか、あれは」
「車だな」
「そんなものは見れば分かります。なぜこんな所に車がやってくるのですか」
「私をここに連れてきたガイドの車だ。一週間経ったら迎えに来るよう言っておいた」
そうですか、と生返事をしたイルダ。
だが、次に意外なことを口にした。
「運転しているのはそのガイドですか?
しかし乗っているのは1人ではないようですが」
「何?」
私は怪訝に思い、聞き返した。
「全部で3人ですね」
私の目では、ここからでは辛うじてガイドのジープであろうと分かる程度にしか見えないのだ。車の中のことなど分かるわけがない。
しかしイルダには車の中に誰が乗っているのか判断できているらしい。
しかし3人とはどういうわけか。
ガイドの連れであろうか……?
何やら嫌な予感がする。
この勘は当るのだ。
私は懐に一枚のカードを忍ばせ、少し動けばすぐに足下に滑り落ちるよう細工した。
車はどんどんと近づいてきた。
なるほど、確かに後部座席に2人、誰かが乗っている。
ジープは私たちから少し離れた場所で土煙をあげながら停車した。
後部座席から男が二人降りてくる。
どちらも見慣れない顔だ。
ガイドは運転席に座ったまま、半ば隠れるようにしてこちらを窺っている。
降りてきた男たちはどちらも若い……白人だ。
私たちに近づくや否や、銃を構えて高圧的な言葉をかけてきた。
「ここで何をしている!」
英語……いや、米語だ。
アメリカ人らしい。
私が眉を顰めて黙っていると、もう一人が続けて怒鳴ってきた。
「ここで何をしているのかと聞いているんだ、魔女め!」
魔女?
なぜこいつら、私が魔女だと知っている?
私の心の中の疑問に答えるように、男たちは喋り続けた。
「我々はウィルマース・ファウンデーションの支部の者だ。ここを監視している」
「あのガイドには、ここにやってこようとする者がいれば連絡を寄越すようにしてあったんだよ」
「スミス卿が死んで以来、ここに来ようとする奴なんてろくな者じゃないのは分かりきったことだからな」
「この土地の存在を理解している奴は魔術に身を置くものくらいのモンだ。
さ、白状してもらおうか、魔女め。
ここで何をしていた?」
なるほど、こいつらが、かの名高いアーカムの対邪神組織『ウィルマース・ファウンデーション』のメンバーか。
クトーニアンと交戦したらしいが、それ以降、この周辺を監視し続けているということらしい。
まあ、確かに、考えてみれば好き好んでこの場所にやって来る者はそういない。
故・スミス氏のことを考えれば、歴史研究家でもここは避けて通るだろう。
となれば、あとはクトーニアンの存在を知る者、その信者などなど……いずれにせよ、彼ら組織にとってろくでもない者であろう。
銃の構え方は訓練された者のようだ。
隙は無い。下手に動けばいつでも引き金を引くだろう。
男の一人が口笛を吹いた。
「魔女は一人だって聞いたが、二人いたのかよ。
揃って別嬪だな。手荒な真似はしたくないが、これも任務でね。
答えないなら支部できっちり吐いてもらうしかないな」
ウィルマース・ファウンデーションには多くの異能者が存在する。
中には精神感応で相手の精神に深く入り込むことができる者たちもいるのだ。
となると、黙秘は意味が無い。心の中を探られて、記憶を暴かれるだろう。
さて、私には余裕があった。
なぜならば……銃を前にしても、私には彼らにしてやられる理由が何も無かったからである。
だが、私はさっさと喋ってやることにした。
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