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偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。

『グ・ハーン断章』


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
クトーニアンやその長である旧支配者シュド=メルに会う『材料』。
それが何かを話す前に、私の当時の『財源』について話さなければならない。


私は他の魔術師、研究家、好事家同様、魔術的稀観書や珍品の収集には莫大な金をかけている。
そのおかげで、他人が羨むようなものをいくつも手に入れることができた。

だがそういった物を手に入れるための資金は無限に沸いて出てくるわけではない。
当然のことながら、財源となるものが必要になってくる。

私は故郷から追放された身ではあるが、家の慣わしで生まれたときより家の財産を一つ分与されていた。
これは家から追われたとはいえ、没収する事は決してできない私だけの財産だった。

私に与えられたもの、それは南アフリカにある金山であった。
そこから得られる金は世界に名だたる他の金山に比べれば微々たるものであったが、私の生活や研究対象収集に困らない量は十分に採掘できていた。

余談だが、今の私の財源は他にもある。
クトーニアンたちから得た情報を元に南米などの土地を買収し、3つのレアメタル―――即ち、コバルト、バナジウム、ニッケルを採掘し、それを売っている。いずれも各国、企業が咽喉から手が出るほど欲しがるものだ。
彼らからそれらの莫大な埋蔵量を秘めた土地を教えてもらえることによって、活動の資金にしているわけだ。

話を戻そう。
私が与えられた金山だが、度々運営を任せている会社から連絡を受けていることがあった。

それは直径4インチほどのケイヴ・パールの発見である。
鉱山内部に人工的、いや、人工的にしては奇妙な穴に、岩屋真珠のようなものが見つかったのだが、どうしたものか、といった連絡である。

当初、私はこれに対し『好きなように』との回答を送っていた。
金目の物と思った会社の人間や現場の作業員などがこれらを自分のものにしたようなのだが、奇妙な事に、そうした者たちがある日を境に消息を絶ってしまうのだった。

余程の財産になったのだろう、仕事を放り投げてどこかでよろしくやっているに違いない……私も含め、誰もがそう思っていたし、そういうことが起こるたびに新しい者を雇って補うだけの話だったのだが、消息を絶つ前に彼らに会った者が、奇妙な証言をしたことによって、岩屋真珠に忌まわしい噂が付くようになり、やがては恐れにより、触れようとする者がいなくなってしまった。

曰く、行方不明となった者は虚ろな顔でこう言い残したらしい。
『誰かが、毎晩俺を呼ぶんだ。それを返せ、元に戻せと……』


グ・ハーン断章を得て、私は知ることとなった。


その真珠が真珠ではなく、クトーニアンの卵であることを。


クトーニアンは千数百年くらいの寿命を持ち、雌は長い期間を経て後、一度に僅かな卵しか産まない。
つまり彼らにとって仔は貴重であり、絶対に奪われてはならないものなのだということだ。
親は人間にとって強大だが、仔はタバコの火を押し付けただけで死に至るほど脆弱だという。
ゆえに親たちは仔を必死で取り返そうとするのだ。


なるほど、今まで行方不明になった連中は、取り返しに来た親たちの餌食になったわけだ。
そして私が考えたことは、彼ら行方不明となった社員たちに弔辞を述べることではなく、もっと別のことだった。

もうお分かりだろう。
私はこれを使って彼らと交渉することにしたのだ。
それは危険な賭けでもあったが、同時に、最大の機会がやってきたと確信した。

すぐに運営会社に電報を打ち、卵を取り寄せた。
ヘンリーと会ってから3日後のことである。
作業員たちはこの珠を卵と知るわけもないが、噂のせいで触れることを極度に恐れていた。
しかしオーナーの厳命とあれば逆らうこともできず……小包に添えられた会社役員からの手紙によれば、皆真っ青な顔で回収したらしい。
致し方ないことではあるが、私は失笑せずにはいられなかった。
彼らには手当てを別に支給してやったことで、多少、慰めになったはずだ。

さて、恐らく卵の中の仔は親に助けを求めて続けているはず。
断章をはじめとする文献によると、クトーニアンは遠方の仲間とテレパシーで連絡を取り合うという。また、それを利用して敵対者の精神を侵し、攻撃を加える、とも。
親たちは私に制裁を加えに―――会いに来るだろう。

だが、彼らをここブリチェスターで待つつもりはない。
5日後、私は彼らの拠点へ出向くべく、エチオピアに向かった。
クトーニアンは水に弱く、体が水に浸かることを嫌うという。
私は空路ではなく、海路を取り、アフリカに上陸した。
そうすることで、道中の危険を少しでも減らせるように。

卵は厳重に箱に入れ、第四の結印を描くことで外部との交信をさせないようにした。
第四の結印とは旧き印(Elder Sign)のことで、外なる神々や旧支配者たち、その眷属や奉仕種族たちはこの印を苦手としている。
ちなみに結印は第一にヴーア(Voor)、第二にキシュ(Kish、旧き印の別名とも言われる)、第三にコス(Koth)、そして第四にエルダーである。順に結べば召喚を表す儀式となる。

とにかく、これで移動中、卵からの連絡は親元に届かず遮断され、私の位置は分からないはずだ。余程のことがない限り襲撃されることはないだろう。
尤も、すでに私の向かう先が彼らに分かっているというのなら、彼らはわざわざ途中で襲ってくる必要もなく、待っていればいいのだろうが……。


長い陸路の旅の末、エチオピアに到着した私は、ホテルなどで休むことなく、現地のガイドを雇い、グ・ハーンがあるとされる地へ向かった。
ガイドは当初、不気味な噂と迷信深い部族が住むその場所へ行くのを嫌がったが、謝礼を弾むと嫌々ながら引き受けてくれた。
ただし、同行はせず、一週間後に迎えに来るということだったが。

旧き印を描いた法衣を纏い、その地に立つ。
アメリー=ウェンディー=スミス卿が探検隊を引き連れ地下へと降りた場所がどこかにあるはずだが、そんなものを探す必要はない。
彼らを呼び、連れて行ってもらえばいいだけだ。
暗き闇に閉ざされた都へと。

私は箱の蓋を開け、卵を解放した。
これで卵の助けを呼ぶ声は親たちに届くはず。

そう、彼らの頭上に罪人がいるのだ。
すぐにでも彼らはやってくるだろう。


どれくらいの間、そうしていただろうか。

大地が鳴動を始める。
よくよく集中して探らないと分からないほどに微小だった揺れは次第に大きくなり、立っているのもやっとというほどの揺れに変貌した。
それでも私は大地に足を踏ん張り、立ち続けた。
揺れの中でも、私は極力冷静に周囲を確認する。

そして気付いた。
揺れているのは極々一部、そう、私を中心とした半径わずか数百メートルくらいの間だけであり、それより外はどういうわけか全くその影響にないことに。


彼らが現れたのだ。


心臓が高鳴る。
未知への、そして人類にとって忌まわしきモノどもへの接触への不安と恐怖。
そして、私の望みへ繋がる第一歩を踏み出せるか否かの期待と不安。

やがて、急にぴたりと地震が治まったかと思いきや、私の足下が突如として消失した。
驚きに目を見開いて確認すると、そこには奈落がぽっかりと口を開けて私を飲み込もうとしていた。


逃げる事もできず、私は猛スピードで闇の底へと落下していった。
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