偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。
『グ・ハーン断章』
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ゴーツウッドは外なる神の一柱、『千の仔を孕みし者』シュブ=二グラスの信仰が盛んに行なわれている土地として知られている。
近隣の森にはアザトースを信仰する外宇宙生物『シャッガイからの昆虫』が棲みついているという塔がある。
その塔はアザトースの寺院そのものであるというが……とにもかくにも、この町はそういった話に事欠かない土地なのだ。
よく晴れた日の昼過ぎだった。
私は知人の家のドアをノックした。
程なく、荒い足音が近づき、勢いよくドアが開いた。
「ヘイ!どこのどいつだい?俺の城に攻めてきやがったのは?」
御伽噺に出てくるドワーフのような、髭面の小柄な中年が顔を出す。
男は私を認めると、見る見る破顔した。
「おや、ラヴィニアじゃねぇか!久しぶりだねえ!なんだなんだ?俺の嫁にでもなりに来たか?」
「相変わらずだなヘンリー。元気そうで何よりだ」
「嬉しいこと言ってくれるね!まあまあ、入りねえ入りねえ」
ヘンリーははしゃぎながら私を屋内に招き入れた。
私に手造りと思しき椅子を勧め、テーブルを挟んで対面に座ったが、すぐにお茶を煎れにであろう、立ち上がった。
「何か変わったことはないか?ヘンリー」
ほどなくキッチンから姿を現したヘンリーに声をかける。その手には二つのコーヒーカップがあった。
イギリスと言えば紅茶だが、この男は大のコーヒー党であり、紅茶は全く飲まないし、客に出しもしないのである。
「何もねえな。そろそろ『ムーンレンズの番人』の儀式があるらしいって話だがね。今んところ、俺にゃ関係ないことさ」
ヘンリーは私の前にカップを置くと、どかっと腰を下ろした。
「この町はただの余所もんの住めるところじゃねえが、同じ匂いのする者にゃ、それなりに住みやすい場所さ。イア!シュブ=二グラス!ってな。そうしてりゃ、お仲間と認めてくれる」
ヘンリーは体を大きく揺らしながら愉快そうに笑った。
「そういうお前さんのとこ、ブリチェスターのあたりはどうだい」
私は軽く首を横に振った。
「特には。グラーキの夢引きに遭った奴の話も聞かないし……アイホートの洞窟に潜り込んで帰ってこなくなった馬鹿はいたがな」
ヘンリーはまた愉快そうに笑った。
「そいつは馬鹿だな。まあ、精々お宝がありそうな場所だとでも思ってたんだろうよ」
ヘンリーはコーヒーを豪快に飲み干し、私に顔を近づけた。
「で?お前さん、世間話をしに来たわけじゃねえんだろ?何が知りたい?」
この男、この世界では少しは名の知れた情報屋だ。
この世界とはこの異様で奇怪な、正気の人間には無縁の世界のこと。
情報元は全く不明だが、情報は確かで信頼できるものが多い。
私はブリチェスターに住む以前から彼と繋がりを持ち、情報提供を受けていた。
私は即答する。
「クトーニアンとその主の活動の信憑性について、だ」
ヘンリーは私の顔をじっと見つめた後、話を始めた。
「ああ、その噂か。本当のことだ。尤も、活動を活発にしていたのはだいぶ前のことで、最近は大人しいがな。
お前も知っているだろうが、アーカムの対邪神組織『ウィルマース・ファウンデーション』と交戦したらしい」
「では?その主『シュド=メル』の覚醒については?」
ヘンリーは肯いた。
「力を回復しきっていないようだが、ウィルマース・ファウンデーションはシュド=メルと思しき存在に攻撃を加えたようだ。
尤も、そのせいで彼の怒りを買い、相当のダメージを被ったようだがな。
全く、何を考えてんのかね?どだい、人間の敵う相手じゃあねえってのによ」
ヘンリーは言葉を切り、眉を顰める。
「だが何だって、クトーニアンのことなんか知りたいんだ」
私には隠す事などない。すぐに答える。
「グ・ハーン断章を手に入れた。すぐにでもエチオピアに向かうつもりなんだ」
その途端、ヘンリーは顔を真っ青にした。
「お、お前、まさか……」
「その通りだ。私は彼らに、シュド=メルに逢うつもりだ」
ヘンリーは顔を顰めながら首を横に振る。
「正気の沙汰とは思えねぇ。仮にも奴は旧支配者だぞ?地を掌握している神だ」
「そう、旧支配者だ。活動を始めている数少ない、な」
ヘンリーは両手を挙げて何度も頷き、私を制する。
「いいか、いかにお前が『忍耐強き者』の血を扱い、『ヴェールを剥ぎ取る者』の力や『手』を扱う魔女でも、奴に直接会うのだけはやめとけ。
銀の鍵を持つ者が『窮極の門の守護者』に逢うのとは訳が違う。
あっさりぶち殺されるだろうし、その前にお前の精神は崩壊するだろうよ」
今でこそ、私は敵対者たちから『流血の魔女』『クリムゾン・テラー』などと呼ばれている(理由は後にまわす)が、この頃の私は無名であり、どこにでもいる一介の魔女に過ぎなかった。
「だが、私の血縁に連なる者は『白痴の魔王』の玉座に何度も出入していたという」
「キザイアのことか。あの魔女は別モンさ。それに事実かどうか確かめた奴がいるわけでもない……なあラヴィニア。悪いコタァ言わねぇ……」
私は頭を振り、きっぱりとその進言を拒否した。
「悪いなヘンリー。私には重要なことなのだ。これを通過できるか否かで、私の魔女としての価値が決まる。
通過せず避けたが最後、私の望みは永遠に達せられないのだ」
ヘンリーは渋い顔で溜息を吐いた。
「やれやれ。勝手にしろ。俺はもう知らねぇ。
一応止めたからな。後で逆恨んで化けて出るな?
だが何だってグ・ハーンなんぞに行くんだ?
旧支配者に会いたければ、セヴァン渓谷に行けばいいじゃねえか。
お前だってそのつもりがあったからブリチェスターに住んでるんだろうが」
「確かにその通りだが。
私は彼らに会う材料を持っていない。
のこのこ行けば動く死体になるか、雛付きになって帰ってくるのがオチだ」
「じゃあ、シュド=メルに会う材料はあるってぇわけかい?」
疲れたように聞き返すヘンリーに、私は不敵な笑みで答えた。
「ああ。尤も、その材料はこれから手に入れるんだが、心当たりはある。
連中に、私と交渉の場を持たずにはいられないようにする材料が、な。
ただ、それでも交渉後に私が無事でいられる保障はないがな」
私はコーヒーを飲み干し、席を立った。
「じゃあな、ヘンリー。また来る」
「またがありゃあいいがな。グ・ハーンでもイハ・ントレイでも好きなところへ行って死んで来い」
ヘンリーの悪態を背にして、私はブリチェスターへ舞い戻った。
5日後、準備を済ませた私はエチオピアへと向かった。
彼らと交渉するための『材料』を手にして。
ゴーツウッドは外なる神の一柱、『千の仔を孕みし者』シュブ=二グラスの信仰が盛んに行なわれている土地として知られている。
近隣の森にはアザトースを信仰する外宇宙生物『シャッガイからの昆虫』が棲みついているという塔がある。
その塔はアザトースの寺院そのものであるというが……とにもかくにも、この町はそういった話に事欠かない土地なのだ。
よく晴れた日の昼過ぎだった。
私は知人の家のドアをノックした。
程なく、荒い足音が近づき、勢いよくドアが開いた。
「ヘイ!どこのどいつだい?俺の城に攻めてきやがったのは?」
御伽噺に出てくるドワーフのような、髭面の小柄な中年が顔を出す。
男は私を認めると、見る見る破顔した。
「おや、ラヴィニアじゃねぇか!久しぶりだねえ!なんだなんだ?俺の嫁にでもなりに来たか?」
「相変わらずだなヘンリー。元気そうで何よりだ」
「嬉しいこと言ってくれるね!まあまあ、入りねえ入りねえ」
ヘンリーははしゃぎながら私を屋内に招き入れた。
私に手造りと思しき椅子を勧め、テーブルを挟んで対面に座ったが、すぐにお茶を煎れにであろう、立ち上がった。
「何か変わったことはないか?ヘンリー」
ほどなくキッチンから姿を現したヘンリーに声をかける。その手には二つのコーヒーカップがあった。
イギリスと言えば紅茶だが、この男は大のコーヒー党であり、紅茶は全く飲まないし、客に出しもしないのである。
「何もねえな。そろそろ『ムーンレンズの番人』の儀式があるらしいって話だがね。今んところ、俺にゃ関係ないことさ」
ヘンリーは私の前にカップを置くと、どかっと腰を下ろした。
「この町はただの余所もんの住めるところじゃねえが、同じ匂いのする者にゃ、それなりに住みやすい場所さ。イア!シュブ=二グラス!ってな。そうしてりゃ、お仲間と認めてくれる」
ヘンリーは体を大きく揺らしながら愉快そうに笑った。
「そういうお前さんのとこ、ブリチェスターのあたりはどうだい」
私は軽く首を横に振った。
「特には。グラーキの夢引きに遭った奴の話も聞かないし……アイホートの洞窟に潜り込んで帰ってこなくなった馬鹿はいたがな」
ヘンリーはまた愉快そうに笑った。
「そいつは馬鹿だな。まあ、精々お宝がありそうな場所だとでも思ってたんだろうよ」
ヘンリーはコーヒーを豪快に飲み干し、私に顔を近づけた。
「で?お前さん、世間話をしに来たわけじゃねえんだろ?何が知りたい?」
この男、この世界では少しは名の知れた情報屋だ。
この世界とはこの異様で奇怪な、正気の人間には無縁の世界のこと。
情報元は全く不明だが、情報は確かで信頼できるものが多い。
私はブリチェスターに住む以前から彼と繋がりを持ち、情報提供を受けていた。
私は即答する。
「クトーニアンとその主の活動の信憑性について、だ」
ヘンリーは私の顔をじっと見つめた後、話を始めた。
「ああ、その噂か。本当のことだ。尤も、活動を活発にしていたのはだいぶ前のことで、最近は大人しいがな。
お前も知っているだろうが、アーカムの対邪神組織『ウィルマース・ファウンデーション』と交戦したらしい」
「では?その主『シュド=メル』の覚醒については?」
ヘンリーは肯いた。
「力を回復しきっていないようだが、ウィルマース・ファウンデーションはシュド=メルと思しき存在に攻撃を加えたようだ。
尤も、そのせいで彼の怒りを買い、相当のダメージを被ったようだがな。
全く、何を考えてんのかね?どだい、人間の敵う相手じゃあねえってのによ」
ヘンリーは言葉を切り、眉を顰める。
「だが何だって、クトーニアンのことなんか知りたいんだ」
私には隠す事などない。すぐに答える。
「グ・ハーン断章を手に入れた。すぐにでもエチオピアに向かうつもりなんだ」
その途端、ヘンリーは顔を真っ青にした。
「お、お前、まさか……」
「その通りだ。私は彼らに、シュド=メルに逢うつもりだ」
ヘンリーは顔を顰めながら首を横に振る。
「正気の沙汰とは思えねぇ。仮にも奴は旧支配者だぞ?地を掌握している神だ」
「そう、旧支配者だ。活動を始めている数少ない、な」
ヘンリーは両手を挙げて何度も頷き、私を制する。
「いいか、いかにお前が『忍耐強き者』の血を扱い、『ヴェールを剥ぎ取る者』の力や『手』を扱う魔女でも、奴に直接会うのだけはやめとけ。
銀の鍵を持つ者が『窮極の門の守護者』に逢うのとは訳が違う。
あっさりぶち殺されるだろうし、その前にお前の精神は崩壊するだろうよ」
今でこそ、私は敵対者たちから『流血の魔女』『クリムゾン・テラー』などと呼ばれている(理由は後にまわす)が、この頃の私は無名であり、どこにでもいる一介の魔女に過ぎなかった。
「だが、私の血縁に連なる者は『白痴の魔王』の玉座に何度も出入していたという」
「キザイアのことか。あの魔女は別モンさ。それに事実かどうか確かめた奴がいるわけでもない……なあラヴィニア。悪いコタァ言わねぇ……」
私は頭を振り、きっぱりとその進言を拒否した。
「悪いなヘンリー。私には重要なことなのだ。これを通過できるか否かで、私の魔女としての価値が決まる。
通過せず避けたが最後、私の望みは永遠に達せられないのだ」
ヘンリーは渋い顔で溜息を吐いた。
「やれやれ。勝手にしろ。俺はもう知らねぇ。
一応止めたからな。後で逆恨んで化けて出るな?
だが何だってグ・ハーンなんぞに行くんだ?
旧支配者に会いたければ、セヴァン渓谷に行けばいいじゃねえか。
お前だってそのつもりがあったからブリチェスターに住んでるんだろうが」
「確かにその通りだが。
私は彼らに会う材料を持っていない。
のこのこ行けば動く死体になるか、雛付きになって帰ってくるのがオチだ」
「じゃあ、シュド=メルに会う材料はあるってぇわけかい?」
疲れたように聞き返すヘンリーに、私は不敵な笑みで答えた。
「ああ。尤も、その材料はこれから手に入れるんだが、心当たりはある。
連中に、私と交渉の場を持たずにはいられないようにする材料が、な。
ただ、それでも交渉後に私が無事でいられる保障はないがな」
私はコーヒーを飲み干し、席を立った。
「じゃあな、ヘンリー。また来る」
「またがありゃあいいがな。グ・ハーンでもイハ・ントレイでも好きなところへ行って死んで来い」
ヘンリーの悪態を背にして、私はブリチェスターへ舞い戻った。
5日後、準備を済ませた私はエチオピアへと向かった。
彼らと交渉するための『材料』を手にして。
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