偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。
『グ・ハーン断章』
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「魔術師でも、能力者でもない。ろくな知識もない。
そんな一般の下っ端構成員が、魔女をどうこうできると本気で思っていたか?」
大量の血と脳漿を撒き散らしながら、男の体が力無く地に倒れ付した。
それを冷ややかに眺めながら誰に言うとも無く呟く。
その返り血を、僅かではあるが頬に浴びた私の背後にぴたりとくっつくイルダ。
何事かと振り返る前に、イルダは私に顔を近づけると、その鮮血をぺろりと舐め取った。
「!?」
驚いて目を丸くする私に、イルダは恍惚とした表情を見せた。
「久しぶりの人間の血……。
そこの骸、いただいても構いませんね?」
物欲しげな眼差しで指差すのは、先ほど倒れた男の死体だ。
私は苦笑して、ただ肯いた。
「では」
イルダは両腕を数本の触手に戻し、死体を軽々と持ち上げると、その首の辺りに噛み付いた。
二本の犬歯は東欧に伝わる吸血鬼を思わせるが、これも何か別のものが歯の形に変わっているのに違いない。
まだ血が固まっていないどころか、温もりも失いきってはいない死体が、急速に干からびてゆく。
暫くすると、イルダは満足した表情で口元を拭き、死体を―――ミイラを投げ捨てた。
からからと音を立てて地を転がる、随分と縮んだ男の死体。
「なかなか美味でした」
何やら言いたげな表情を浮かべつつ、イルダは私を見つめている。
私はそれを黙って見返して、その言葉を待った。
イルダはふっと笑みを作った。
「貴女の、魔女の血はさぞ美味しいでしょうね。
魔力に、精気に、活力に溢れていて。
楽しみですよ。貴女を今の男のようにしてやるのが」
その目には冗談と、そして確かな殺意の双方を秘めていた。
私は肩を竦めて受け流す。
イルダもそれ以上は何も話さず殺意も消して、視線をジープへと移した。
ジープの中では運転席に座ったままのガイドがハンドルを握ったまま蒼白となり、遠目で見ても分かるほどぶるぶると震えていた。
自分が連れてきた組織の男たちが殺されるのを見たというのに逃げもせずにいるとは。
余程頭が混乱しているのか、恐怖に硬直して体が動かないのか。
私が首をかしげると、イルダが私の方を見もせず説明した。
「今、あの男の頭の中に侵入しています。
彼は逃げたがっていますが、『逃げれば追われて殺される、逃げずに言う事を聞けば助けてもらえる』と強く思い込むよう誘導しているのです」
なるほど。
クトーニアンの精神感応、誘導術か。
若いイルダをしてこれほどとは。
流石に何の知識も訓練も度胸もない人間には退ける術は無い。
「では参りましょうか、ラヴィニア」
「ああ」
短く応えて、私たちは歩き出した。
ふと、足を止めて振り返り、もう一つの死体―――『ザ・ブラック』によって私が始末した死体のあった場所を探したが、そこあったはずの骸は消えていた。
その代わり、
地中より、
こんな声が聞えた気がした。
け・はいいえ えぷ・んぐふ ふる・ふうる ぐはあん ふたぐん、
け・はいいえ ふたぐん んぐふ しゅど=める。
はい ぐはあん おるる・え えぷ ふる・ふうる、
しゅど=める いかん・いかんいかす ふる・ふうる おるる・え ぐはあん。
えぷ えぷ-ええす ふる・ふうる ぐ・はあん。
ぐ・はあん ふたぐん しゅど=める ひゅあす ねぐぐ・ふ。
彼らは久々の生贄に満足したのであろうか。
いや。
ただ一つの骸に満足はするまい。
更なる『罪人』―――敵対者の流血を、私に望むだろう。
この声は、今ではいつでもどこでも、私の耳に入ってくる。
彼らの怒りに触れた者にとっては死へと誘う声であろう。
だが、私にとっては子守唄に等しいのだ。
恐怖の涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、失禁までしてしまったガイドを銃で脅し、耳障りな命乞いの呟きとジープの中に立ちこめる悪臭に顔を顰めつつ、私たちはその場を後にした。
街についてすぐに出立の準備や移動手段を手配したものの、ブリチェスターに戻ったのはそれからさらに一週間を要した。
以後、ウィルマース・ファウンデーションは私を危険人物に指定。
行く先々で何度もその構成員と争うこととなった。
だが、それも仕方ない。
彼らの相手をするのは、シュド=メルとの契約でもある。
さて、グ・ハーン断章にまつわる話はこれにてお仕舞いである。
次はもう一つの書、『ニライカナイ』の話……いや、その前に。
短いが、別の話を交えてもいいかと、これを書きながら思っている。
追記。
あのガイドだが。
もうあの街でガイドをやってはいない。
というより、あの後、その行方を知る者はいないという。
私は彼の行く末になど関心は無いが……どうしても彼を見つけたいという奇特な者は、運がよければ彼が住まいとしていた長屋の軒下で、変わり果てた姿の彼を見つけることが出来るかもしれない。
ま、私の知ったことではないがね!
「魔術師でも、能力者でもない。ろくな知識もない。
そんな一般の下っ端構成員が、魔女をどうこうできると本気で思っていたか?」
大量の血と脳漿を撒き散らしながら、男の体が力無く地に倒れ付した。
それを冷ややかに眺めながら誰に言うとも無く呟く。
その返り血を、僅かではあるが頬に浴びた私の背後にぴたりとくっつくイルダ。
何事かと振り返る前に、イルダは私に顔を近づけると、その鮮血をぺろりと舐め取った。
「!?」
驚いて目を丸くする私に、イルダは恍惚とした表情を見せた。
「久しぶりの人間の血……。
そこの骸、いただいても構いませんね?」
物欲しげな眼差しで指差すのは、先ほど倒れた男の死体だ。
私は苦笑して、ただ肯いた。
「では」
イルダは両腕を数本の触手に戻し、死体を軽々と持ち上げると、その首の辺りに噛み付いた。
二本の犬歯は東欧に伝わる吸血鬼を思わせるが、これも何か別のものが歯の形に変わっているのに違いない。
まだ血が固まっていないどころか、温もりも失いきってはいない死体が、急速に干からびてゆく。
暫くすると、イルダは満足した表情で口元を拭き、死体を―――ミイラを投げ捨てた。
からからと音を立てて地を転がる、随分と縮んだ男の死体。
「なかなか美味でした」
何やら言いたげな表情を浮かべつつ、イルダは私を見つめている。
私はそれを黙って見返して、その言葉を待った。
イルダはふっと笑みを作った。
「貴女の、魔女の血はさぞ美味しいでしょうね。
魔力に、精気に、活力に溢れていて。
楽しみですよ。貴女を今の男のようにしてやるのが」
その目には冗談と、そして確かな殺意の双方を秘めていた。
私は肩を竦めて受け流す。
イルダもそれ以上は何も話さず殺意も消して、視線をジープへと移した。
ジープの中では運転席に座ったままのガイドがハンドルを握ったまま蒼白となり、遠目で見ても分かるほどぶるぶると震えていた。
自分が連れてきた組織の男たちが殺されるのを見たというのに逃げもせずにいるとは。
余程頭が混乱しているのか、恐怖に硬直して体が動かないのか。
私が首をかしげると、イルダが私の方を見もせず説明した。
「今、あの男の頭の中に侵入しています。
彼は逃げたがっていますが、『逃げれば追われて殺される、逃げずに言う事を聞けば助けてもらえる』と強く思い込むよう誘導しているのです」
なるほど。
クトーニアンの精神感応、誘導術か。
若いイルダをしてこれほどとは。
流石に何の知識も訓練も度胸もない人間には退ける術は無い。
「では参りましょうか、ラヴィニア」
「ああ」
短く応えて、私たちは歩き出した。
ふと、足を止めて振り返り、もう一つの死体―――『ザ・ブラック』によって私が始末した死体のあった場所を探したが、そこあったはずの骸は消えていた。
その代わり、
地中より、
こんな声が聞えた気がした。
け・はいいえ えぷ・んぐふ ふる・ふうる ぐはあん ふたぐん、
け・はいいえ ふたぐん んぐふ しゅど=める。
はい ぐはあん おるる・え えぷ ふる・ふうる、
しゅど=める いかん・いかんいかす ふる・ふうる おるる・え ぐはあん。
えぷ えぷ-ええす ふる・ふうる ぐ・はあん。
ぐ・はあん ふたぐん しゅど=める ひゅあす ねぐぐ・ふ。
彼らは久々の生贄に満足したのであろうか。
いや。
ただ一つの骸に満足はするまい。
更なる『罪人』―――敵対者の流血を、私に望むだろう。
この声は、今ではいつでもどこでも、私の耳に入ってくる。
彼らの怒りに触れた者にとっては死へと誘う声であろう。
だが、私にとっては子守唄に等しいのだ。
恐怖の涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにし、失禁までしてしまったガイドを銃で脅し、耳障りな命乞いの呟きとジープの中に立ちこめる悪臭に顔を顰めつつ、私たちはその場を後にした。
街についてすぐに出立の準備や移動手段を手配したものの、ブリチェスターに戻ったのはそれからさらに一週間を要した。
以後、ウィルマース・ファウンデーションは私を危険人物に指定。
行く先々で何度もその構成員と争うこととなった。
だが、それも仕方ない。
彼らの相手をするのは、シュド=メルとの契約でもある。
さて、グ・ハーン断章にまつわる話はこれにてお仕舞いである。
次はもう一つの書、『ニライカナイ』の話……いや、その前に。
短いが、別の話を交えてもいいかと、これを書きながら思っている。
追記。
あのガイドだが。
もうあの街でガイドをやってはいない。
というより、あの後、その行方を知る者はいないという。
私は彼の行く末になど関心は無いが……どうしても彼を見つけたいという奇特な者は、運がよければ彼が住まいとしていた長屋の軒下で、変わり果てた姿の彼を見つけることが出来るかもしれない。
ま、私の知ったことではないがね!
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