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偽島の呼び声?
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ラヴィニアの手記。

『イゴーロナクの手』



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あれは私が17の頃だった。


当時、まだブリチェスターに居を定めておらず、世界のあちこちをさ迷い歩いていた。
魔道書の蒐集や関連の書物、アーティファクトなどを探し回り、手に入れては貸し金庫へ送りつけていた。
魔女と言うにはまだまだ未熟で、書に記された事柄の研究量も実践の結果もまだまだ芳しいものとは言えなかった頃だ。


イタリアのローマを訪問する機会があった。
ここで絵のオークションが開催されたのだ。

誰もが知っているような巨匠たちの絵の他に、リチャード=アプトン=ピックマンの絵が競売にかけられるという噂を聞き、是非欲しいと思ったのだ。


しかしながらそれはガセだった。
今思い返せば当たり前の話である。
ゴッホだのゴーギャンだのの絵の中に、ピックマンの絵が紛れて売られるわけがない。

私は無駄な時間を過ごしたと落胆し、すぐさまローマを後にして、気分転換に水の都として名高いヴェネツィアを訪問することにした。


ゴンドラにでも乗って、思索にでも耽るか。
そんなことを考え、軽い気持ちで船に乗ったのである。

魔道研究に没頭する私ではあるが、ゆったりして寛ぐ時間も嫌いではない。
研究ばかりではストレスが溜まってしまう。
こんな時はしっかり遊ぶのだ。


ゆっくりと進むゴンドラに乗り、ヴェネツィアの街並みをぼーっと眺めていた。
船頭は無口な老人で、私が質問をしない限り、唇をへ文字に結んで船を漕ぎ続けた。
私もあまり口は開かなかったが、たまに見える興味深いものを指差して、あれはなんだ?これはなんだ?と尋ねた。
船頭はぶっきらぼうだが詳しく教えてくれたものだ。

船頭共々下船し、お茶に付き合わせたりもした。
言葉少ない男だったが、ヴェネツィアの歴史には詳しく、町のことを事細かに説明してくれた。


たまにはこういう時間の過ごし方もいいものだ。
探求の旅ばかりで少々疲れていた私はそう思った。


どのくらい経っただろう。
陽は傾きかけていたが、私はまだ船上の人だった。
前金で結構な額を支払っていたからだろう。
長いこと船を独占し、散々寄り道をさせたというのに、船頭は嫌な顔一つしなかった。

ある民家の横を通った時である。

庭に何気なく目をやった私は、いくつも置いてある植木鉢に紛れるように、妙なものがにょっきりと伸びているのに気が付いた。


「と、止めてくれ!」


船頭は突然の制止に驚いたように目を丸くしたが、すぐに船を止めた。
私は目を凝らして件の妙なものの正体を探る。

それは人間の左腕らしかった。
緑灰色をした左腕の彫刻。
それが植木に隠されるようにして放置されていた。

しかし、なぜそんなものが置かれているのだろうか?

私はこれに不思議と興味をそそられ、船頭を待たせてその家を訪ねてみることにした。
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